乙女チック
 『似顔絵描き』をしていたときのお話。

 「…そしたら10分ほどで描き終わるんで、僕のオデコの辺りを見ていて下さいね」。恐る恐るも、努めて普段どおり筆を取った。目の前に座るのはヤンキー君。短ランにボンタン、真っ白なデッキシューズ、エナメルの細っそいベルト、リーゼントから伸びる金色の襟足、修学旅行だってことで、手にはちゃんと木刀を持っていらっしゃる。…もう生きた心地なんかしない。

 …だが、いざ向かい合ってみると、ヤンキー君は両手を膝の上にちょこんと置いて、カチカチに緊張している様子。そんなナリをしてアガリ症なのか? 子犬のようだ。そうと判れば慣れたもの。緊張を解いてあげようと「ちょっと表情が硬いかな〜。一番のキメ顔して見せてよ」と言ってみる。お客さんをリラックスさせる為に、度々そういったことを言うのだが、途端にヤンキー君の顔が強ばった。…やばい、調子に乗ってしまった。…タメ口はマズかったか? 次の瞬間、鼻先20センチで怒濤のメンチ切りが始まった。いけない…殺られる。この人、木刀持ってるんだってば。

  木刀 VS 筆、勝ち目あるのかオレ。尚もメンチは続く。何も言わず、ピクリとも動かないヤンキー君… あれ? どうも様子がおかしい。メンチなのに目が合わない。目を合わすではなく、ちょっぴり上、オデコの辺りを見ていてるようだ。ひょっとして? そして、ようやく全部を理解する。

 鏡に向かい「この角度が良いかしら?」などと、人知れず研究しているんだろう、その『一番のキメ顔』を、日頃の練習の成果を、100%で見せてくれているのだ。となれば、こちらも100%でもって応えねばなるまい。自ずと筆を走らせる指先にも気が入る。

 …ただね、近すぎて良く見えなかったんだよね。ごめんね。
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by ajicoba | 2006-04-07 03:56 | エッセイ
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