小鳥が出ますよ
 「すみません、ちょっとシャッター押してもらえませんか?」遭遇率が異常に高い。つまり「やたらと記念写真を頼まれる人」である。もちろん『池中玄太80キロ』のような風体で歩いているわけではないし、西田敏行にも似ていない。理由はわからないが、いわゆる観光地・名所と呼ばれる場所を訪れると、大抵1回は声をかけられる。一所で8回声をかけられたことだってある。「お店に入ると急に客が増える人」や「めったにティッシュを貰えない人」と同じように、何かのオーラ?があるのかも知れない。

 どんなことであれ、頼りにされて悪い気はしないし「ありがとう」と感謝されれば、素直に嬉しいものである。喜んでシャッターを押そう。ただ、シャッターを押すときには何らかの合図を出さねばならない風潮がある。それが困りものだ。旅先での出来事なのだから、「パシャリ」「さようなら」で済むのかも知れない。しかし、それでは「やたらと記念写真を頼まれる人」失格である。

 写真を撮るときの合図で、最も一般的なのは「はいっ、チーズ」だろう。だが見ず知らずの人の前で「はいっ、チーズ!」と声を張ることには、どうにも耐え難い抵抗がある。大の大人を一瞬にして馬鹿に変えてしまう、あの妙な抑揚とリズムは何だろう。「はいっ、チーズ!」「コマァ〜シャル」「僕マイッケル!」どれも大差無いではないか。だからって「イチたすイチは〜?」も、かなりの勇気が必要だ。誰も「にィ〜」と言ってくれなかった場合、目も当てられない惨事となる。ちなみに、韓国では「キムチ」と言うらしいが、前置きも無く「キムチィ!」と言ったところで困ったことになってしまうし「ウィスキー」と言う国もあるようだが、やはり同じことだ。

 聞くところによると「ちぃ」の発音をしたときの口の形が、自然な笑顔に一番近いらしい。だとすれば何も「チーズ」でなくても良い。必要なのは「ちぃ」だ。もっと良い言葉はないものだろうか?「ちぃ」「ちぃちぃ」「ちぃちぃ!」…出て来てしまったが、やっぱり「地井武男」ではまずい。「ちぃたけおォ〜」全員が「おォ〜」の顔をした、よくわからない記念写真が目に浮かぶ。ならば「ちっちきちぃ〜」はどうか?「ちぃ」がこれだけ並べば、間違いなく笑顔はバッチリだ。バッチリ笑顔で全員が親指を立てた記念写真が出来上がる。被写体にもよるが、やはりこれも考えものだ。十数人のオバサマ達全員が満面の笑みで親指を立てている写真など不気味で仕方ない。ロケーションが種子島宇宙センターだったりしたら、もう婦人会だかアルマゲドンだか、何だかわからないことになる。結局いつも「はい、撮りまぁ〜す」と軽く宣言した後、無難に無難にシャッターを切るようにしている。

 最近はデジタルカメラが多い。「やたらと記念写真を頼まれる人」にとってデジカメは相当な困りものだ。文明の利器を恨めしく思う。なぜなら、ズバリすぐ見られるから。「いや、かなんわ、わたし目ぇ瞑ってしもてるわぁ、お兄ちゃんもう一枚」ってことになる。トリミングがまずかったり手ブレをしていたなら、こちらも素直に否を認める。が、表情、シワ、顔色までは知ったことではない。「やたらと記念写真を頼まれる人」はあくまでも「やたらと記念写真を頼まれる人」であってプロではないのだ。まして十数人のオバサマ達全員が揃いも揃って人生のベストスマイルになる確率など、頭に隕石が落ちる確率よりも低い。池中玄太80キロでも180キロでも出来ないものは出来ない相談である。

 「すみません、ちょっとシャッター押してもらえませんか?」声を掛けたときに、何故その人なのかを考えてみて欲しい。「近くにいた」「声を掛けやすかった」「優しそうだった」など色々と思い当たる理由があるだろう。しかし、そんなものは結果に過ぎない。全ては、その人が「やたらと記念写真を頼まれる人」だからである。
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by ajicoba | 2005-12-23 05:33 | エッセイ
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