順番を間違える
 順番を間違えてはいけない。順番を間違えると人は、ひどい目に遭う。例えばこんな風にだ。もよおしてトイレに向かう。トイレのドアを開け、中に入りドアを閉める。便座が下がっていることを横目で確認しつつ、ベルトを緩めズボンとパンツを下ろしホッと一安心となる。まぁこれが一連の順番、常だ。…が順番を間違える。トイレのドアを開け、中に入りドアを閉める。トイレットペーパーが切れていることに気づき補充する。「仕事帰りにでも買い足しとかないと」などと考えつつ、ベルトを緩めズボンとパンツを下ろし便器に腰をガーン!となる。冷たい便器にスッポリはまって、何が起こったのか全くわからず、手足をパタパタしている下半身丸出しの大人、もうすぐ30歳。こんなにひどい目もそうそうないだろう。

 人は順番に支配されている。いつも利用するレンタルビデオ店のアルバイトA君などは、典型である。マニュアル化されたA君にとって接客対応の順番は絶対なのだ。

「いらっしゃいませ」「会員証をお願いします」「会員証のほうお返しします」「レンタル日数のほうは?」「○○○円になります」「○○○円からお預かりします」「○○○円のお返しになります」「○月○日迄のレンタルになります」「ありがとうございました」(まったくもってひどい日本語が並んだものだが、ここでは触れずにおく)

 これが毎度のA君の接客だ。もちろん感情など小指の爪の先ほどもこもっていない声音である。これ以外の言葉を話す、いや、発音するA君を見たことがなかった。あまりに無感情な接客に少しカチンときたので、意地悪半分で実験を試みることにした。借りたいDVDを3本と会員証、レンタル料金ちょうどのお金を一緒にカウンターのA君に渡し、同時に「一週間でお願いします」と言ってみた。「会員…しょう…証…レンタ…ル…四百…ひゃく…五…十円…」A君は声にならない声でしばらく口をモゴモゴさせた後、レンタルの手順を済まし、商品を手渡しながらこう言った「のした」

 ひどい、全く意味がわからない。何てことだろう。順番を間違えた人はこんなにもひどい目に遭うのか。順番を間違えたA君はパニックになったのだ。パニックになった脳で何とか、必死の思いで紡ぎ出した言葉、それが「のした」だったのだ。がんばった、よくがんばった、ただ全く意味がわからない。

 順番を間違えてはいけない。順番を間違えると人は、ひどい目に遭う。
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by ajicoba | 2006-01-07 04:05 | エッセイ
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